はじめに
この記事では、アスペクトの観点から見た動詞の分類について解説します。例えば「状態動詞は進行形にできない」というのを皆さん習ったことがあると思います。では動詞にはどんな分類があるのか、その判断基準は何なのかについて解説します。
いくつか押さえておいて欲しいことがあります。そもそも相(アスペクト)とは、述語の表す動作が完了しているか否か、また進行中か否かを表す文法カテゴリーのことです。この相という文法はいろいろなレベルで研究がされています。例えば、今回解説するのは語彙相といって、それぞれの語(より正確には動詞句)がどのようなアスペクト的な特性を持っているのかを考えるものです。他にも「have+過去分詞」で完了を表したり、「be+~ing」で進行を表したりしますが、これらは文法相と呼ばれており、語彙相と関連はするものの異なるレベルの問題です。
この記事では阿部(2018)を参考にして、Vendler(ベンドラー)(1967)のアスペクト論を主軸に、説明していきます。
4つの分類と分類の基準
ベンドラーは動詞について4つの分類を提案しています。
1.状態動詞(stative verb)(love,know,bilieve,hate,be tall,likeなど)
2.活動動詞(activity verb)(run,push a cartなど)
3.達成動詞(accomplishment verb)(draw a circle,write a letter,travel from A to B,write a novel, build a houseなど)
4.到達動詞(schievement verb)(reac the top,sneeze,cough,blinkなど)
2.3.4.をまとめて動作動詞と呼びます。
まず、動詞は大きく1.状態動詞と2.3.4.動作動詞に分けられます。これらは進行形にできるか否かを基準に分類され、状態動詞は進行形にできません。(#は意味的に変則的であることを示します)
(1)I am running(or writing,working,etc.).
阿部(2018)より
(2)#I am knowing(ro loving,etc.).
なぜ状態動詞が進行形にできないのか?これは進行形がどのような意味を持っているかを理解すると分かります。結論から言って進行形の意味的な特徴は「動作を状態に変換する」(阿部2018)と理解することができます。この特徴付けは(1)の英文を日本語訳したときに「~ている」と訳せることや、進行形にはBE動詞が用いられており、私=「走っているという状態にある」と捉えられることを踏まえてものです。(動作では無い)
さて、進行形の意味的特徴が「動作を状態に変換する」(阿部2018)であるとすれば、動詞自体で状態を表す状態動詞は進行形によって状態化される必要が無いことが分かります。このため、状態動詞は進行形にできないのです。
次に、2.活動動詞と3.達成動詞4.到達動詞を区別する方法を説明します。2.活動同士はfor(~の間)と共起し、3.達成同士と4.到達動詞はin(~経って)と共起します。次の例を見て下さい。
(3)*John pushed the car in an hour.(?ジョンは1時間で車を押した)
(3)(4)(5)は阿部(2018)より(一次資料は米山・加賀(2001))(6)(7)(8)は安藤(2005)より
(4)John pushed the car for an hour.(ジョンは1時間の間、車を押した)
(5)John pushed the car to the gas station in an hour.(ジョンは1時間で車をガソリンスタンドまで押した。)
(6)I wrote a letter in two hours.(私は2時間で手紙を書いた。)
(7)*I wrote a letter for two hours.(?私は2時間の間、(ある)手紙を書いた)
(8)I was writing letters for tow hours.(私は2時間手紙を書いていた)
まず、(3)(4)を見てください。pushed the carは2.活動同士なので、forと共起することはできても、inと共起することはできません。それに対して、(6)(7)を見ると、write a letterは3.達成動詞なのでinと共起することはできても、forと共起することはできません。
アスペクトの観点からみると、2.活動動詞の表す行為には特定の終点がありません。それに対して、3.達成動詞の表す行為には特定の終点があります。上の例でいえば、「ジョンが1時間で車を押し終わった」というのは少し変ですが、「私が手紙を2時間で書き終わった」というのは自然です。「ジョンが1時間で車を押し終わった」が自然に解釈されるには、「ジョンはある地点まで車を押す必要があり、1時間後にその地点に到達した」というような文脈が必要です。そのため(5)のように押すという行為の終了する点がガソリンスタンドとして明示される場合、inと共起するようになります。また(8)のように数の明示されない複数形の目的語をとる場合は、終点を持たなくなるので、forと共起できるようになります。(two lettersのように数が分かると終点を持ちます)
終点を持たない場合、それがどれくらいの時間続いたのかを示す動機があります。そのためfor(~の間)と共起します。しかし、それがどのくらいの時間をかけて終わったのかを示す動機はありません(そもそも終点がないのだから)。そのためinとは共起しません。
終点を持つ行為の場合、それがどのくらいの時間をかけて終わったのかを示す動機があります。そのためin(~経って)と共起します。しかし、それがどのくらい続いたのかを示す動機がありません。そのためfor(の間)とは共起しません。
この終点の有無という特性をよく理解するため、別の言い方をしてみると、終点がある場合「手紙を書き始めても、書きかけのまま、手紙を書き終わる前にその行為を中断すると、それは「手紙を書いた」とは言えません」が、終点がない場合「車を押し始めて、途中で押すのを止めてしまっても、「車を押した」と言える」ということです。
ここまでで、2.活動動詞と3.達成動詞・4.到達動詞を区別することができました。では、3.達成動詞と4.到達動詞はどのように区別するのでしょうか。3.達成動詞と4.到達動詞は終点を持つという点は共通ですが、違いもあります。それは動詞が表す行為が経過的か瞬時的かというものです。例えば次の例を見てください。
(9)I wrote a letter.(私は手紙を書いた)
阿部(2018)より
(10)I reached the top. (私は頂上に着いた)
(9)write a letterは達成動詞、(10)reach the topが到達動詞です。手紙を書くという行為は、時間の幅を持っています。それに対して頂上に着くという行為は時間の幅を持っていません。例えば、「3時間で手紙を書く」という場合、手紙を書くという行為が3時間続いているわけですが、「3時間で頂上に着く」という場合、「頂上に着く」という行為が3時間続いているわけではなく、あくまで続いているのは「山を登る」という行為です。つまり、3.達成動詞は行為の継続と終点を表すことができるが、4.到達動詞は継続を表さず、終点のみを表すということです。
この違いから、3.達成動詞と4.到達動詞には、atとの共起関係に差があります。atは時間軸上の1点を指すので、継続を持つ3.達成動詞とは共起せず、終点のみを表す4.到達動詞と相性がいいです。また、進行形にした時の意味合いに明示的な差が観察されます。
(11)I am writing a letter.(私は手紙を書いている)
阿部(2018)より
(12)I am reaching the top.(私は頂上に到達しつつある)
3.達成動詞は継続を含みますから、その進行形は「終点に向けて継続中である」という意味合いになりますが、4.到達動詞は継続を含まないので、その進行形が表すのは、「「到達する」という終点に向けて「登る」という行為を継続中である」つまり、「到達しつつある」という意味になります。以上がVendler(ベンドラー)(1967)の動詞の分類とその判断基準です。
1.状態動詞(stative verb)(love,know,bilieve,hate,be tall,likeなど)
意味的特徴…終点のない、行為の内容が均質なプロセス(状態)を表す。
判断基準…進行形にできない。
2.活動動詞(activity verb)(run,push a cartなど)
意味的特徴…終点のない、行為の内容に変化がある非均質なプロセス(活動)を表す。
判断基準…forと共起する。
3.達成動詞(accomplishment verb)(draw a circle,write a letter,travel from A to B,write a novel, build a houseなど)
意味的特徴…終点と継続性のあるプロセスを表す。
判断基準…inと共起する。進行形の意味が継続を表す。
4.到達動詞(schievement verb)(reac the top,sneeze,cough,blinkなど)
意味的特徴…終点はあるが、継続性のないプロセスを表す。
判断基準…inと共起する。atとも共起できる。進行形が「~しつつある」を意味する。
補足
動詞の分類は研究者によって若干の異同が見られます。今回参考にした書籍でも、大枠は共通していても、個々の動詞をどこに分類するかという点では違いがみられました。ぜひ比較してみてください。
また、それぞれの語(より正確には動詞句)と書きましたが、アスペクト論は動詞単体で論じられるものではなく、専ら動詞句レベルの問題と認識しておく必要があるでしょう。
まとめは、阿部(2018)より、ジョン・R・テイラー/瀬戸賢一(2008)によった書き方をしています。
今回参考にした文献
阿部潤(2018)『生成意味論入門』開拓社
安藤貞雄(2005)『現代英文法抗議』開拓社
石黒昭博 監修(2013)『総合英語 Forest 7thEDITION』桐原書店
ジョン・R・テイラー/瀬戸賢一(2008)『認知文法のエッセンス』大修館書店
特にオススメの一冊
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