時制と相 1

 この記事では時制と相について導入的な解説をします。特に今回は時制の話です。相は別の記事にします。

 高校までの英語の授業で時制と相を明示的に異なる文法カテゴリーとして習ったことのある方は少ないのではないかと思います。多くの方は、「現在進行形」や「過去完了形」のように時制と相を複合的なカテゴリーとして、個別に教わるのではないでしょうか。「時制は分かるけど、相って何?」と思う方がいると思うのですが、相というのは「完了形」や「進行形」のことです。カタカナでアスペクトということもあります。ここでは一歩進めて、時制と相を明示的に区別して文法を理解していきましょう。 

 まず、時制です。時制とは「ある動作・状態が発話時より前か後か,それとも同時かという時間関係を,動詞の形式によって表す文法範疇」です(安藤2005)。ポイントが2つあるので指摘しておくと、文の表す出来事の生じた時間そのものを指すのではなく、出来事と発話時との関係を表すという点、そして動詞の形式によって表すという点です。 

 いくつかの例を確認して、時制が出来事そのもの時間ではないという点を確認しましょう。

(1)The train leaves at 7 tomorrow morning.(列車は明日の7時に出発する)
(2)This guy comes up to me yesterday and says he wants a loan.(この男が昨日私のところにやって来て,金を借りたいと言うんだ。)
(3)What was your name?(お名前はなんでしたっけ)

(1)(2)は樋口(2004)から、(3)はテイラー/瀬戸(2008)から引用

 (1)は動詞の時制は現在形になっていますが、列車が出発するという出来事は未来のことです。次に(2)では動詞の形は現在形になっていますが、出来事が生じたのは過去のことです。(3)は動詞は過去形のwasになっていますが、昔の名前を聞いているわけではなく、単に思い出せないので丁寧な言い方がしたいだけでしょう。時制が出来事のそのものの時間を表すわけではないことが確認できたでしょうか。 

 では、時制は何を表しているのかというと、「発話時」と「出来事の生じた時間」の関係を表していると考えられています。例えば、現在時制は発話時と出来事が生じた時間が同じであることを表し、過去時制は発話時に比べて出来事が生じた時間が過去であることを表していると言うことです。このように考えると(1)~(3)がどうのように考えられるのかを解説していきます。 

 まず、(1)は動作と言うよりは予定を表しています。つまり、明日の7時に電車が出発するという予定は現在において成立していると理解することができます。予定という出来事は発話時に成立していてもおかしくありませんね。(2)は歴史的現在と呼ばれている文で、ちょっと込み入った話をしなくてはならないので、また別の記事で取り上げようと思います。(3)は、丁寧な言い方をしたいときに過去形を用いるというのを習ったことがあると思いますが、それと同じ現象です。では、なぜ過去形が丁寧な言い方に繋がるのかを少し解説しようと思います。時制が「発話時」と「出来事の生じた時間」の関係を表しているとすると、現在形では「発話時」と「出来事の生じた時間」が同時ですが、過去形では発話と出来事の間に時間的な距離が生じます。この距離が丁寧さを表すために用いられたと考えられています。今回の記事の主題からは脇道にそれることになるので詳しい話はしませんが、こういった「丁寧さ」は言語と深く関わっています。 

 さて、時制が文の表す出来事の生じた時間そのものを指すのではなく、出来事と発話時との関係を表すという点を確認できたところで、次のポイントを確認しようと思います。動詞の形式によって表すという点です。 

 結論から言ってしまうと、英語に時制は過去と現在(より正確には非過去)の2種類があります。未来は?と思う方もいらっしゃると思いますが、例えばwillを使った文は「will+do」という形で、2語の組み合わせを使って未来を表現しています。一方、過去形では動詞に-edを付けていますが、付けた後でもそれはあくまで1語とカウントされています。ここが「動詞の形式によって表す」という時制という文法の特徴です。フランス語など、動詞を変化させて未来を表すような言語は時制として未来形を持っていると言うことができます。その他、いくつかの理由でwillなどは未来を表せる表現であっても未来時制ではありません。どちらかというと、can/may/must/shouldなど、一般に法助動詞と呼ばれるものの仲間だと考えられています。 

 時制という文法を細かく見ていくと様々な疑問が湧いてくると思いますが、今回の記事はここまでです。次の2点が今回の記事で理解して欲しいポイントです。

まとめ
・時制とは文の表す出来事の生じた時間そのものを指すのではなく、出来事と発話時との関係を表すための文法的カテゴリーである。
・時制は動詞の形式によって表されるもので、willなどは厳密には別の文法カテゴリーに属する。

今回参考にした文献
安藤貞雄(2005)『現代英文法抗議』開拓社
石黒昭博 監修(2013)『総合英語 Forest 7thEDITION』桐原書店
樋口万里子(2004)「相・時制・法」in大堀壽夫(編)(2004)『認知コミュニケーション論』大修館書店
ジョン・R・テイラー/瀬戸賢一(2008)『認知文法のエッセンス』大修館書店

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